技術の進歩と知識の獲得につれてますます細分化・専門化していく近代農学。システム農学会は,そうした個別科学では解決できない問題に対して,既成の学問領域の枠を超え,独創的なアプローチで挑もうとする意欲を持った研究者・実務者の集まりです。
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今日、人類は人口増加による世界的な食料危機や大規模な森林破壊による地球規模での砂漠化など、それ自体の生存に関わる重大な局面に直面しつつある。しかも、そのいずれの局面も、農学の最も深く関わる分野でありながら、従来の個別専門分野の研究のみでは、その総合的かつ本質的な解決はもはや困難な事態に立ち至っている。 周知のように、今世紀にみる科学の驚異的な発展は、その専門化、細分化の方向において達成されてきた。しかし、不幸なことに、専門化に伴う科学の細分化が進めば進むほど、各専門分野の相互関連が失われ、問題の相互的な解決がいよいよ困難なものとなり、そこに現代科学の危機が叫ばれるようになってきた。農学としてもその例外ではない。因みに、現在農学のかかえている様々な問題、約言すれば、食料の効率的生産による食糧危機への対処、森林資源の維持・造成による木材の効率的生産、および自然環境の保全、技術革新と情報社会への対応、農村社会における人間性の回復等々の諸問題に対する総合的、本質的な問題解決の困難さなどがそれである。 ここに、専門化した農学関連諸科学の仮説、概念、原理、方法論などを既存の専門分野の壁を越えてシステム化し、研究課題の境界領域を拡大ないしは変更し、未領域科学としての農学の学際研究を推進することが必要不可欠となってきた。いうまでもなく、生物をも含めて自然環境の人為的制御を目指す農学はシステム化の最も困難な、しかも最も必要な学問分野である。なぜなら、自然環境の下での生命の再生産を対象とする農学ほどに、多様な要素、高度な機能を対象とする科学は他にないからである。しかるに、わが国の農学においては未だこの分野での学際研究の場がなく、研究成果もまた少ない。 以上の主旨の下に、農学の学際領域におけるシステム研究のための、未領域科学としての新しいシステム農学の構築とその発展を目指して、専門分野を異にする研究者が多方面から多数集結されんことを強く要望して、ここにシステム農学会の設立を呼びかけるものである。
(1984年4月5日)
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